第9話
鈴羽 「話は聞かせてもらったよ、岡部倫太郎!」
倫太郎「お前はバイト戦士!? 聞かせてもらったとはどういう意味だ!?」
鈴羽 「君たちの話し声がうるさくて、下で店番してるあたしのところまでイヤでも聞こえてくるんだよ」
至 「下の階でバイトしてるおにゃのこにすべて盗み聞きされていた、だと……? ということは僕がエロゲプレイしてるところも!?」
鈴羽 「それは知らない」
至 「盗み聞きは、されるよりしたい派なのに!」
鈴羽 「誰もそんなこと聞いてないよ」
至 「あ、でも、あえて盗み聞きされるっていうのもそれはそれでなんだか興奮してきたお!」
倫太郎「自重しろダル!」
まゆり「スズさん、こうして来てくれたっていうことは、オカリンの誕生日の祝い方について、なにかいいアイデアがあるの~?」
鈴羽 「もちろんあるよ」
まゆり「聞かせて聞かせて~」
鈴羽 「そもそもみんなは、誕生日っていうものに対して考え違いをしてるんだ」
まゆり「考え違い?」
鈴羽 「あたしのいた時代……じゃなくて、あたしのいた地方では、誕生日っていうのは、祝うものじゃなかった」
紅莉栖「また脱線話か……まともな話ができる人間はいないの?」
鈴羽 「誕生日は、子供であることから卒業して、戦士としてひとり立ちするための区切りの日だったんだ。それ以上の意味なんてなかった。その区切りの年齢は、11歳。その歳になった日、みんな武器を取る」
まゆり「映画みたいなお話だね~」
鈴羽 「でも、ただ誕生日を迎えるだけじゃ、戦士としては認められなかった。その日一日、地獄のようなサバイバルを生き抜く必要があった」
まゆり「サバイバル……?」
鈴羽 「山の奥に素っ裸で放置されてね。一番近い街までは歩けば半日はかかるような場所さ。あたしは熊や野良犬と素手で戦ったりもした。泥水をすすって、毒で汚染された木の実で飢えを凌いだ」
至 「そ、そんなことが……クソッ、ひどすぎる! いくらなんでも、あんまりだろ!」
まゆり「ダルくんが、こんなに怒ってるの、はじめて見た~……」
紅莉栖「橋田って、阿万音さんとそんなに親しかった?」
至 「だってさ! 11歳全裸幼女にそんなひどいことするとか、ロリコンの風上にも置けんだろマジで!」
紅莉栖「誰か警察呼んで」
倫太郎「というか、鈴羽よ、なんだその作り話は。お前はアマゾンの奥地にでも住んでいたのか?」
鈴羽 「作り話なんかじゃない。れっきとした事実だよ。そしてあたしはその地獄のような誕生日を乗り越え、一人前の戦士になったんだ」
倫太郎「つまり、いったいなにが言いたいのだ? 簡潔に説明しろ」
鈴羽 「岡部倫太郎も、あたしと同じサバイバルを体験すればきっと強くなれる! さあ、一緒に戦士になろう!」
倫太郎「断る!」
鈴羽 「ええー、なんで? 戦士になれるんだよ?」
倫太郎「俺は戦士ではなくマッドサイエンティストだ! 頭脳派なのだ!」
紅莉栖「自分で頭脳派って言っちゃうおとこのひとって……」
まゆり「スズさん、じゃあお誕生日に楽しかった記憶はないの?」
鈴羽 「ない、かな。呑気にお祝いしてる情勢でもなかったし」
倫太郎「本当に、お前はいったいどこの国の生まれなのだ……」
まゆり「あのね、スズさん。きっと、スズさんが産まれたときはね、すっごくすっごくたくさんの人から祝福されたはずだよ」
鈴羽 「え? そう、かな?」
まゆり「うん。間違いないよ。スズさんのお父さんやお母さんだけじゃなくて。コミマに来るたくさんの人たちもね、あったかい笑顔で、お祝いしてくれると思うんだ~」
至 「コミマ? なんでコミマなん?」
紅莉栖「まるでなにか知ってるような口ぶりだけど……」
倫太郎「誰かと勘違いしてるのではないか?」
鈴羽 「椎名まゆり、いったい、どういうこと?」
まゆり「これはね、まゆしぃの、予想みたいなものなのです。詳細はね~、明日分かると思うよ。楽しみにしててね。トゥットゥルー♪」