第3話
至 「そもそもオカリンってさ、祝われ慣れてなさそうだよな。あんま友達いないし」
倫太郎「そこのスーパーハカー! 今の言葉、訂正してもらおう! この俺にはかつてともに戦った仲間たちが世界中にいるのだ。フランスのサラ、アメリカのエドワード、ドイツのカールリヒター。エトセトラエトセトラ。もっとも、その大半は……戦いの最中、無念のうちに倒れていき、今はもう会えないのだがな……」
至 「いや、オカリンって高校の頃、英語のテストで赤点取ってたっしょ」
倫太郎「むぐ……」
紅莉栖「アメリカのエドワードやらドイツのカールなんとかさんとは、どうやってコミュニケーションを取ってたの?」
倫太郎「……フッ、これは一子相伝の秘密だから詳しくは教えられないが、機関の盗聴をかわすための独自言語……いわゆるエンシェントワードを使っていた、とだけ言っておこう」
紅莉栖「一子相伝なのに他の人も使えるの?」
倫太郎「…………」
まゆり「オカリンのお父さんはね~、とっても元気な八百屋さんのご主人なのです」
倫太郎「言うなよ!」
紅莉栖「ちなみに岡部ってこれまで、誕生日はどうやって過ごしてきたわけ?」
倫太郎「言っただろう。フランスのサラ、アメリカのエドワード、ドイツのカールリヒターらとともに――」
まゆり「んっとね、去年はまゆしぃがケーキあげたよ」
倫太郎「ちょっ、まゆり、待てって!」
まゆり「オカリンは誕生日なのに実家のお店のお手伝いしててね、偉いなあって思って」
紅莉栖「ふむん、家業の手伝いね。なんだ、真面目なところあるじゃない」
倫太郎「そ、それは俺の、世を欺く仮の姿だ! 安易に騙されるとは、まだまだ修行が足らんな助手! あと手伝っていたのではない! 手伝わされていたのだ!」
至 「むしろその方が心が痛い件について」
まゆり「その前の年はね、ん~と、そうそう! そのときもまゆしぃがケーキをあげたよ。オカリンはね、鬼子母神堂で、左腕が痛い~、とかなんとか言いながら傘を振り回したの。あれって、なんの特訓って言ってたかなぁ?」
倫太郎「特訓ではない。左腕に封印された邪悪な魂が暴走しそうになるのを、必死でこらえていただけだ。あと、左腕が痛かったんじゃなくて、左腕がうずく、と俺は言っていたはず。そこは大事なところだから間違えてもらっては困る」
紅莉栖「岡部……そういうことは普通、小学生で卒業するものよ」
倫太郎「くっ、憐れみのこもった目で見るな、クリスティーナ!」
まゆり「その前、3年前も、まゆしぃがケーキをあげたのです♪ 近所の公園でね、世界は昆布に戻さないといけないっていう難しい話を、3時間ぐらいしてくれたんだよね♪」
倫太郎「昆布ではない、混沌だ」
紅莉栖「あんた……昔からそんなだったのね」
倫太郎「ククク、いかにも。俺はその頃からすでに機関と戦う日々を送っていたのだ!」
紅莉栖「機関はともかく、要するに岡部の誕生日はこれまでずっと、まゆりとふたりきりだった、と」
まゆり「うん。まゆしぃは、オカリンの人質なので」
倫太郎「いや待て。そんなほのぼのしたものではないぞ。俺は常に機関と戦い続けていたのだからな。そのせいでサラもエドワードもカールリヒターも……」
至 「オカリン許さない。絶対にだ!」
倫太郎「ダル、なぜいきなりキレるのだ?」
至 「だってJKっつーか当時JCのまゆ氏に誕生日祝ってもらえるとか、リア充にもほどがあるだろ! 畜生! リアル幼なじみとか僕にもくれ! 今すぐくれ! 12人くれ!」
紅莉栖「この脱線話って、いったいいつまで続くんだ……」